初恋の話

 ふいに思い出した。保育園に通っていた時分、りなちゃんという女の子を好きになった。サバサバとした感じの、可愛らしい女の子だった。母に「taion2は好きな子いるー?」と聞かれ「りなちゃんー」と答えた。そしたら父が「その子を家に誘って一緒に遊びなさい」と言い出した。意図が不明。
 今も当時も根性無しのぼくだったから、好きな子を家に誘う勇気なんてない。「えー……」と曖昧な態度を取った。そしたら「要は勇気がないんでしょ。男は度胸、なんでもやってみるものさ」と強引に父に押し切られ、りなちゃんを家に誘うことが決定事項になった。
 次の日、保育園の帰りに父が迎えに来た。家族経営の自営業だったから父が迎えに来ることはよくあった。だから、彼は保育園の子供たちの顔と名前をある程度知っていた。父はおもむろにりなちゃんのところに向かい、「ちょっとtaion2がお話あるみたいだから、聞いてくれる?」とのたまった。意味が不明。
 もう逃げられない。ぼくはおどおどしながら、りなちゃんを家に誘った。「家来ない?」「いーよ」。
 そしてりなちゃんが家に来た。でもぼくは何を話していいのかわからず、盛り上がりに欠けた。「うわ、絶対「つまんない男」って思われてるよ」と思った。りなちゃんは帰った。それから特に何があるわけでもなく日々は過ぎて卒園した。